行政書士試験講座-入門行政法~行政行為~

1.はじめに

行政法において「法理論」と呼ばれる分野があります。

行政法全体に共通する原理や概念・用語などを整理する分野です。

その「法理論」と呼ばれる分野で最も重要な概念が「行政行為」です。

「行政行為」というのは、行政の活動を整理するために学者の先生達が作り出した概念です。これを指して、行政法学上の概念(もしくは行政法学説上の概念)といいます。

したがって、実際に作られた法律(実定法といいます)には登場しません。実際の法律では、「処分」もしくは「行政庁の処分」と表現されています。

行政行為と行政処分はほぼ同じ概念ですが、そこには多少の違いもあります。

ここでは、とりあえず行政行為≒行政処分と考えておきましょう。

(最近では『行政行為』という概念を使わずに『行政処分』で代置させてしまう考え方もあります。橋本博之『現代行政法』(2017)や芝池義一『行政法読本(第4版)』(2016)では特に「行政行為」という概念を登場させずに「行政処分」に置き換えて済ませてしまっています)

2.行政行為の定義

行政行為の定義については

法令に基づき、個別の事情で、市民の活動の自由を規制する義務の賦課、及び、具体的権利の創設・変更・取消しを内容とした、行政庁による一方的認定行為(大橋洋一『行政法Ⅰ(第3版)』(2016)

行政庁が、公権力の行使として一方的にする、外部に向けた、法律関係を直接に変動させる、個別・具体的な行為(畠山=下井『はじめての行政法(第3版)』(2016))

行政庁が法令に基づき、個別の事例において、私人に対して直接的に法的効果を発生させる認定判断行為(原田大樹『例解行政法』(2013))

行政機関が国民に対して行う具体的な法行為で権力的な性格を有するもの(北村他『行政法の基本』)

と様々な定義が登場します。したがって、その定義自体を正確に覚えることはあまり意味のあることではないでしょう。

大切なのはそこに含まれる要素です。

3.行政行為を特徴づける要素

行政行為という概念は行政の活動を整理するために編み出された概念です。したがって、他の行政の活動との違いに着目してその特徴を考えていく必要があります。

行政行為を特徴づける要素としては、

①法律を根拠として行政庁が行う行為である

②法的効果を有する

③外部的行為である

④具体的な行為である

⑤権力的な行為である

という特徴をもっているとされています。

4.①~⑤の要素は何を指しているか?

①行政庁が行う行為

「行政」行為である以上、行政機関が行う行為である必要があります。

したがって、国家が行う立法に関する行為や裁判所が行う裁判に関わる行為は当然ながら行政行為ではありません。

また、行政行為は②⑤にあるように、一方的な行為によって私人に法的効果を生じさせるものですから、法律の留保の原則から法律の根拠が必要となります。

法によって意思決定権限および表示権限を与えられている行政機関のことを「行政庁」と呼びましたね。

したがって、法律を根拠として行政庁が行う行為ということになります。

②法的効果を有する行為

行政行為は、私人の権利義務に変動を生じさせるものです。この点で、法的効果を持たない行為(=事実行為)と区別されます。

法的効果を持たない行為(=事実行為)としては行政指導や行政強制があります。

したがって、行政指導や行政強制という行政の行為形式は行政行為とは呼ばないということになります。

③外部的行為

行政行為は、行政の外に存在する私人に対して行われる行為です。したがって、行政内部の行為、例えば上級機関から下級機関に対して行われる指示・命令にあたる行為(訓令や通達と呼ばれます)は、行政行為とは呼びません。

ただし、行政機関としての公務員に指示や命令がなされる場合には内部行為とみなされますが、公務員に対してであってもその自由や権利を侵害する行為(たとえば懲戒免職処分)などは外部に対する行為とみなされますので混乱しないように注意しましょう(いや当然混乱しますが。。。。(笑))

④具体的な行為

行政行為は、特定の対象(AやB会社)に対する個別・具体的行為である必要があります。

したがって、ある種のルール設定のような行為(抽象的な規範定立行為と表現されます)は行政行為ではありません。

この点で、政令・省令の制定のような法規命令の制定行為や条例の制定行為などは含まれません。また行政計画も含まれません。

⑤権力的な行為

行政行為は、行政庁が優越的な立場から相手方たる私人・国民の同意を必要とせずに行われるものです。

この点で、民法で主要な行為形態として登場する契約とは大きく異なっています。

したがって、行政契約は行政行為には含まれません。

まとめ

行政行為とは、

〔定義〕行政庁が、公権力の行使として一方的にする、外部に向けた、法律関係を直接に変動させる、個別・具体的な行為

(特徴づける要素)

①法律を根拠として行政庁が行う、②法的効果を有する、③外部的、④具体的、⑤権力的な行為