法学入門(基礎法学)

法とは何か?

法とは、社会の中に存在する様々なルール(社会規範)の1つです。

道徳や慣習、宗教上の規則、村の掟なども社会規範の一つですが、これらの社会規範と「法」の違いは、国家権力による強制力を伴うか否かにあります。

つまり、法は、国家権力による強制力を伴ったルール(社会規範)ということになります。

たとえば、刑法という法律は、199条で殺人罪を規定しています。

刑法199条は、人を殺害すると5年以上の懲役に処すると規定することで、我々国民に殺人を犯すことを禁じているといえます。

そのため、その「法」に反して人を殺害すると警察に逮捕され、裁判を経て刑罰(懲役刑等)が科されることになります。

これは国家権力による強制力を伴った制裁なので、「逮捕されたくない!」「刑務所になんか入るのは嫌だ!」とどんなに叫んでも、警察や検察、裁判所といった国家機関によって強制力を持つ形で実行されることになります。

一方、「汝隣人を愛せよ」という道徳的規範に従わなかったとしても、国家権力による制裁を受けることはありません。

これが「法」と他の社会規範との違いということになります。

法の形式(法はどのような名称でよばれているか?)

「法」がどのような名称でよばれているかを、法の形式といいいます。

日本における法の形式としては、憲法・条約・法律・命令・条例があります。

法の形式間には序列があり、憲法>条約>法律>命令>条例の順序で効力が強くなります。

したがって、最も強い効力を持つ憲法は最高法規と呼ばれています。

また、下位の法は、上位の法に反することができないので、憲法に反する法律や命令は無効になります(憲法に反することを「違憲」と呼びます)。命令も上位法である法律に反するものは無効になります。

自由の基礎法

そもそも近代市民革命以降において憲法(立憲的意味の憲法)が制定された目的は、国民の自由が国家権力によって不当に制限されることを防ぐことにありました。

そこで、日本国憲法においても国民の自由を保障する規定(人権規定)が数多く置かれています。

したがって、憲法は国民の自由を保障するための根拠規定として機能します。

つまり、憲法は、国民の自由を基礎づける「自由の基礎法」としての特質を備えているということになります。

制限規範

国民の自由や権利を侵害する最大の主体は国家権力です。

国内において最高の力をもつ国家権力が我々国民の自由や権利を不当に侵害しだすとそれを止める担い手は(少なくとも国内においては)存在しないことになります。

そこで、国民の自由・権利を守るために、憲法は、国家権力が国民の自由や権利を不当に侵害しないように、国家権力を縛っていく必要があります。

つまり、憲法は、国家権力を名あて人(相手方)として、国民の自由や権利を侵害しないように国家権力を制限する法(=制限規範)として働くという特質も備えています。

 

本来、憲法が「国民の自由や権利を侵害しないようにしなさい」と命じている相手は、私人ではなく、国家権力であることに注意しましょう。

最高法規

憲法は、国民の自由や権利を守るために国家権力を制限していく法規範です。

仮に、憲法よりも強い国家権力が存在したり、憲法よりも上位に位置する法規範を国家権力が作り出すことができるとすると、憲法が国民の自由や権利を守るために国家権力を制限していくことは不可能になってしまいます。

したがって、憲法は、すべての国家権力よりも上位にあって、すべての国家権力に歯止めをかけることが可能である必要があります。つまり、憲法は、他のすべての法規範に優越し、その国の法体系において最上位にあることが求められるのです。

そこで、憲法は法体系の中で最上位に位置付けられており、「最高法規」としての性質を有しています。

憲法の最高法規性は、日本国憲法では98条1項で宣言されています。

憲法98条1項

この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない

 

その結果、憲法に反する法規範は無効となります。
確認チェック!

憲法には、➀自由の基礎法、➁制限規範、➂最高法規という3つの特質がある。

自由の基礎法とは、憲法が国民の自由を基礎づける法規範であることを指す。

憲法は、国家権力を制限する規範(制限規範)として働く。

憲法が国民の自由を守るために国家権力を制限できるようにするためには最高法規であることが必要である。

憲法の基本原理

日本国憲法には3つの基本原理、“三大原理”と呼ばれるものがあります。

それは、

①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義の3つです。

国民主権

国政における最終的な決定権を国民が持っていることを意味する原理です。

憲法学では、“国の政治のあり方を最終的に決定する力または権威が国民に存するというもの”という定義が良く使われます。

国民主権は、日本国憲法では、憲法前文1項および1条で規定されています。

憲法前文

・・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。・・・

憲法1条

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

基本的人権の尊重

基本的人権とは、人である、ただそれだけで当然に有するとされる権利のことです。

憲法は国民の自由を基礎づける法(自由の基礎法)として制定されたものです。

したがって、国民の権利・自由の保障=基本的人権の尊重は、憲法の採用する大きな原理の1つになっています。

 

このような権利のことを「自然権」と呼びます。ただし、憲法に規定される権利が全て「自然権」としての性質を有しているわけではないので、憲法に規定された権利を「基本的人権」と言わずに、あえて「憲法上の権利」とよぶ立場もあります。
日本国憲法で「基本的人権の尊重」をうたっている条文は、11条と97条です。

憲法11条

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

憲法97条

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

平和主義

日本国憲法では、戦前に軍国主義化から戦争に至った反省に基づき、徹底した平和主義の立場をとっています。

憲法9条では、戦争放棄・戦力不保持等を明文で宣言しています。

憲法9条

1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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